手付金と先払金
一、事実関係
A商社(以下、A社という)はB食品製造会社(以下、B社という)との間で、B社のA社向け缶詰2万箱の納品と、A社のB社への総額50万元の代金支払、契約成立後、A社の手付金10万元の先払い及び5月30日迄の残金の一括払い、B社のA社向け缶詰全量の出荷、双方が違約した場合、違約部分の10%で違約金を支払うという売買契約を交わした。
契約成約後、A社は手付金10万元をB社に送金した。
同年3月、B社は売買契約の価格が低すぎたとして、A社と値上げ交渉をしたが断られた。
当月10日、B社はA社に対して売買契約に異議があるとして、先払いの代金分の商品しか提供できないと通告した。
A社は、発効済みの売買契約は履行すべきであり、一方的に違約すれば、すべての責任はB社が負うべきと反論した。
4月中旬、A社は缶詰を取りに行ったが、B社に拒否された。
4月末、B社は当時売買契約をサインした総経理が不在であり、締結した契約は無効であるとして、手付金および銀行利息をA社に返金したが、A社は受領を拒否しB社を提訴した。
二、判決趣旨
裁判所は開廷し、双方の言い分を聞き、B社は売買契約の発効後、一方的に契約内容の変更を求めたが、A社からの同意が得られなかったため、その契約はなお有効であるとした。B社は契約に決めた期限内に義務を果たさず、また契約の無効を理由に、手付金を返却したことは違約行為に該当し、違約責任を負うべきものとして、倍の手付金をA社に返金しなければならないと判決した。
三、法律適用
「民法通則」第89条第3項により、当事者の一方は法律が決めた範囲内で、相手に手付金を支払うことができる。債務者(B社)が債務を履行した後、手付金を代金にするかまたは回収しなければならない。手付金の支払いを約束した一方(A社)は債務を履行しない場合、手付金の返還を求める権利を有しない。手付金を受け入れた一方(B社)は債務を履行しない場合、倍の手付金を返還しなければならないとする。
本規定により、手付金とは、当事者が契約の締結の際または契約履行の前に契約の履行を保証するために一方が他方に一定数量貨幣を支払う担保契約である。
四、コメント
1.手付金は契約履行を担保する方式であり、契約履行後、代金とすることが出来る。また、手付金は前もって給付する性質を有しているが、手付金と先払金については以下の違いがある。
(1)手付金の主な役割は担保であるが、先払金の主な役割は相手の契約を履行するために資金を提供し、給付の一部履行に属するものである。
(2)手付金を交付する協議は、契約履行を保証するために前もって支払う従契約であるが、先払金は契約内容の一部であり、契約の履行に該当する。
(3)法律効果も異なる。先払金は処罰の性質がなく、先払金を支払った一方が契約を履行しなかった場合、相手は返還しなければならない。逆に、先払金を受け取った一方が契約を履行しなかった場合は、倍の先払金を返還する義務は無く元の代金のみ返還する必要がある。これに対して、手付金は法律規定上、懲罰の性質を有する。
2.本案から見れば、A社が契約の締結後、一部の手付金を先に交付したことは契約の履行を担保するためであり、B社の言う先払金には該当しない。売買契約は双方が平等に協議した上で成約したものであり、当然、契約の変更または解除は双方の合意を必要とする。
3.B社は倍の手付金を返還した後、更に違約金を賠償する必要は無い。法律により、当事者は手付金及び違約金の条項を同時に適用できず、そのいずれかしか選択できないとしている。もし、手付金の条項を選択した場合、違約金額が実際の損失を上回った場合、当事者は適宜に減少を請求できるが、手付金が実際の損失を下回った場合、当事者は違約金の増加を求めることができるが、損害賠償金を請求することができなくなる。
※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事を一部加筆修正したものです。