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出張先のホテルでの怪我は労災になるか

一、 事実経緯

 A氏は2012年1月に蘇州市の某食品販売会社(以下、B社という)に入社、市場開発業務を担当することとなった。2012年3月19日、B社はA氏をB社の代表として食品販売代理商との商談の為に南京市へ出張させた。A氏はその食品販売代理商と5日間のハードな交渉を経て販売契約を結び、該当代理商の代表との食事を終えホテルに戻った。その後、ホテルの宿泊部屋のバスルームで入浴していた際、シャワールームのガラスが突然破裂したため、A氏は驚いて足が滑って転んだ結果、病院で左膝の骨折と複数箇所の捻挫と診断された。A氏は蘇州市に戻った後、B社に何度も労災認定を求めたが、B社はA氏の傷害は労災に当たらないとして、A氏の労災認定に同意しなかった。2012年4月10日、A氏は個人名義で地元の労働仲裁委員会に申し入れ、労災認定を要求した。

 

二、 裁決と判決の旨

 労働仲裁委員会は調査の結果、A 氏の傷害事故は「労働保険条例」第十四条第五項の「業務外出期間中における仕事が原因による傷害、或いは事故の発生による行方不明」の規定に合致すると認めた。よって、労災を認定すべきと裁決した。B社は該当の裁決を不服とし、区裁判所及び中級裁判所へ行政訴訟を提起した。一審及び二審裁判所は同様に労働仲裁委員会の裁決の認定結論を維持した。

 

三、 コメント

1.本案争議のポイントは「労災保険条例」第十四条第五項に対する理解及び適用問題である。従業員は会社を離れ出張する際、傷害に遭遇する可能性が高くなるため、会社は関連法律における「勤務時間、勤務場所及び勤務原因」について単純、機械的に理解してはならず、相対的に広く解釈すべきものとして、労働者の利益を優先的に保護する立法原則を遵守しなければならない。

2.「業務で外出する仕事時間」とは、労働者は会社によって本職職場の場所を離れてその他のところへ派遣され、会社の手配する仕事を完成する時間と、外地へ出張し、日常生活に関わる時間である。「業務で外出する仕事場所」とは、業務で外出期間中従事する仕事場所或いは日常生活の場所である。「業務で外出する仕事原因」とは、仕事と直接関わる原因、或いは仕事を展開する為に必要な生活需要であり、例えば宿泊、通常の三食等の間接原因を含む。「業務で外出する期間」とは、従業員が会社より出張を命じられ、会社の指定する業務を実施するために必要な全体の期間である。総じて、業務で出張する従業員は通常外地の環境について詳しくないため、生活の不便から傷害に遭遇するリスクが高く、一定の特殊性が存在する。故に「出張期間中の勤務期間、勤務場所及び勤務原因」の解釈を緩やかに拡大すべきである。従って、A氏が遭遇した傷害事故は「労災保険条例」第十四条第五項に定めた労災認定の条件に合致する。

3.A氏が南京市へ出張した際に遭遇した傷害事故は、販売代理契約を締結するという仕事原因に属するほか、現地での生活も仕事を完成するために必要な間接原因に属するとも言えるため、その傷害も当然労災原因に当たるべきである。入浴は正常な生活衛生上の需要であり、A氏がその時に受けた傷害は出張の原因と一定の関連性を持つと考えられる。

4.出張期間中、完全に個人の原因により発生した傷害は労災から排除する。例えば、個人の旅行及び娯楽等の過程において発生した傷害は除外すべきである。

 

※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事を一部加筆修正したものです。