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定年後再雇用の社員は労災保険を享受できるか

一、  事実経緯

 A氏は、2011年2月末、外資企業(以下、B社という)で定年を迎えた後、B社と1年間の労務契約を締結した。

 2011年8月、A氏は勤務中骨折し、治療を受けた後、B社に労災待遇及び治療費などの負担を申し入れたが、B社はA氏と締結した労務契約を理由に応じなかった。

 2011年9月、A氏はB社所在地の労働仲裁委員会に仲裁を求めたが、労務関係の紛争を受理できないと通告された。同年10月、A氏はB社を管轄する地裁に提訴し、B社にA氏の労災待遇及び医療費などの負担を求めた。

 

二、判決の趣旨

 地裁はA氏の提訴を受理後、法廷でA氏の主張及びB社の反論を聞いたうえで、A氏とB社との関係は労働関係でなく労務関係を形成している(※)と認め、A氏は労災待遇を享受できないが、骨折の治療費はB社が負担すべきと判決を下した。

 

 ※労働関係と労務関係との区別

 1、法律根拠の違い

 労働関係は「中国労働契約法」によって規範、調整され、労働関係を形成するには書

面の労働契約を締結しなければならないが、労務関係は「中国民法通則」及び「中国

契約法」によって規範、調整され、形成、存在する労務関係の当事者間で書面労務契

約を締結するかどうかは当事者双方が協議し確定する。

 2、当事者間の義務負担の違い

 労働関係における雇用者は法律法規及び地方規則などに従い、従業員の為に社会保障

義務を負わなければならないが、労務関係において当事者一方は他方当事者の従業員

であるという隷属関係が存在しない。

 

三、コメント

1、なぜ地裁が本案を受理すべきか

 「最高裁の労働争議案件審理法律適用若干問題に関する解釈(三)」第七条では、雇用主が既に養老保険待遇を享受し或いは年金を受領した人員と使用争議が生じ、人民法院に提訴した場合、人民法院は労務関係によって処理すべきと決められているため、A氏がB社を管轄する地裁に提訴した以上、地裁は本案を受理する義務がある。

 

2、A氏を救済する方法があるか

 A氏は、B社で労務活動に従事中に遭遇した人身損害に関し労災保険の待遇を享受できないが、「最高裁の人身損害賠償案件審理法律適用若干問題に関する解釈」(法釈(2003)20号)第十一条に従って、B社に対して治療費の賠償を求める権利を有する。B社はA氏に対する賠償責任を免れない。

 

3、第三者がA氏に怪我させた場合、どう処理すべきか

 もし、雇用関係以外の第三者がA氏に人身損害をもたらした場合、A氏は第三者かもしくはB社に賠償責任を請求することができる。B社は賠償責任を負担した後、第三者に返済を求めることができる。

 

4、A氏が個人雇用主との労務関係下で怪我した場合、どう処理すべきか

 もし、A氏が個人雇用主との労務関係にあるなかで、怪我した場合、「雇用主責任」の追及は主張できず、「権利侵害責任法」の関連規定に基づいて、雇用主及びA氏の各自の過失程度によって賠償責任を負うこととなる。

 

※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事を一部加筆修正したものです。