なぜ輸出代金が入らなかったのか
一、事実経緯
2011年5月、中国国内の電子部品メーカー(以下、A社という)は外国輸入商(以下、B社という)と売買契約を締結し、A社がB社に電子部品を輸出し、B社がA社に代金の6万米ドルを支払うと約束した。
契約締結後、A社はB社から20%の手付金を受取した後、生産に着手した。部品出荷前、A社はB社からの残金の支払証憑のスキャン書面を受取った後、空輸で部品を発送した。ところが、A社には、数日が経過しても代金が入らず、B社に代金の送金の状況を確認した。A社から要望を受けたB社は残金の一括支払済、並びに送金日、金額、A指定銀行口座、口座番号など詳細資料を送った。
不審に感じたA社及びB社双方は過去に送受信した電子メールを照合、確認したところ、A社とB社のメールアドレスが第三者に盗まれ、その第三者がそれぞれA社、B社を装ってメールしていたことが発覚した。詐欺者がA社の名義(と酷似したメールアドレス)でB社に支払指示を発し、B社に代金をいわゆるアメリカ分公司の口座に送金させ、且つ開設口座名称、口座など情報を知らせ、更に、B社の名義(と酷似したメールアドレス)でA社に払込済のスキャン書類を送信し、A社及びB社に信じさせていたものである。まさに詐欺者の指示通りに事が進み、完全に詐欺者によってコントロールされていたことになる。詐欺者は送金を受けた後、直ちに行方不明になった。
その後の調べによって、詐欺者のIPアドレスは中国にあらず、輸入商の所在国にもあらず、ラテンアメリカの国にあることが明らかになった。
二、コメント
1、本案はA社の業務担当のリスク防止の意識がないことに起因した。もし、A社とB社が事 前に契約、支払通知、口座番号など基本情報について書面通知に準ずることを約束しておけば、詐欺者に乗じられるすきを与えることはなかった。
2、ネット詐欺の最大の特徴としては詐欺者は国境を跨がり、第三国で犯罪を行い、捕まえにくい。同時、一旦詐欺行為が成功したら、直ちに資金は移転され、取戻しが難しい。
3、貿易業務では、ほとんど電子メールに依って情報をやり取りしているが、会社及び業務担当は自分のメールアドレス、IP等電子情報を管理する能力が不充分であり、貿易会社は電子メールの管理及びリスク管理を常態化すべき。
4、近年、中国における多くの輸出企業が海外からのネット詐欺に遭遇している。本案は決して対岸の火事ではない。貿易会社は業務担当及び財務担当に対するリスク防止のトレーニングを強化し、詐欺者の手口を周知し、詐欺を防止する能力を向上させることが不可決だろう。
※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事を一部加筆修正したものです。