管理職に残業代を支払うべきか
一、事実経緯
2010年、A氏はアパレルのB社に年俸10万元で製造部マネージャーとして招聘されたが、翌年、B社はA氏との労働契約を解除した。
A氏は、B社在職中、平日及び休日の残業が多く、休日に様々な業務会議を主宰したほか、業務トレーニングの実施もB社より要求されたことに対して、労働契約法の関連規定に基づいて、平日及び休日の残業代として合計7万元余が支払われるべきと考え、B社に交渉したが、不調に終わった。
二、仲裁の裁決
A氏はやむを得ず労働仲裁を申し入れたが、仲裁委員会はA氏の業務上不定時勤務制の採用を理由に、残業代の請求を退けた。
三、裁判の判決
A氏は裁決を不服とし裁判所に提訴し、B社に残業代の支払を求めた。
法廷審理中、A氏が、B社との労働契約では不定時勤務制と定めておらず、毎日の通常勤務時間は8時間を超えてはならないと主張したのに対して、裁判所は、A氏はB社が実施する年俸制管理職にあたり、B社の製造部マネージャーとして、予想外の突発事件への対処を避けられず、勤務時間の固定化が難しいと判断するとともに、A氏の給与基準はB社の現場作業者を遥かに上回り、権利義務対等の視点から考えれば、A氏の年俸給与の中には勤務時間上一定の弾力性、及び必要な不定時残業の要素が含まれるとし、更には、A氏の従事する管理職位に市労働と社会保障局が総合計算時間勤務制の実施を許可したことを踏まえ、A氏の労働時間の延長の認定及び休日の残業代の請求を支持しないと判決した。
四、コメント
1、企業は管理職の不定時勤務時間制を労働行政部門に申請し、批准され、管理職本人に告知後は、平日及び休日の残業代を支払わなくとも良い。
2、労使間の残業代をめぐる紛争案件は増加の傾向を見せているが、司法実務上、労働者は原告側とは言え、必ずしも勝訴すると限らない。浙江省のある地裁では、昨年受理した労働争議案件109件のうち、残業代請求案件は16件あり、裁判所はうち2件しか支持せず、また3件の管理職の残業代請求案件は裁判官が審理後すべてその請求を退けた。
3、案件訴訟の主体は中国人社員から現地採用の外国人社員まで広がっている。
4、残業代請求案件の結審方式から見れば、和解の難易度が高い。訴訟のコストが低いこともあり、労働者は安易に提訴に踏み切りやすく、提訴取下げ率は同期の民事案件を下回る一方で、上訴率は同期の民事案件を上回る傾向がある。
5、2012年5月、「特殊工時管理規定(意見徴収稿)が公布され、特殊工時の適用範囲を明確に規定し、管轄範囲、申請資料、未届出など行為の法律責任などについても定めている。今後、この規定の行方に留意してほしい。
※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事を一部加筆修正したものです。