歩合給だから残業代を払わなくてもよいか
一.事実経緯
2010年2月、A氏は、上海にある機械メーカー(以下、B社という)に雇われ、3日間働いて、1日休み歩合給を得ていた。1日あたりの労働時間は12時間を超えていた。
2010年5月、A氏は歩合料に残業代が含まれていないことに気づき、22名の同僚と共に労働仲裁を提起した。
二.仲裁裁決
労働仲裁委員会は、A氏らが証拠を提供できないことを理由に、その請求を退けた。
三.裁判結果
裁決に不服があるA氏らは浦東新区裁判所に提訴した。担当裁判官はB社の人事総監と面談したが、B社の人事総監は勤怠表を提供した上、A氏らが1日あたり12時間以上働いていたことを否認した。一方で、提供した勤怠表には出勤、欠勤の旨しか記録されていなかった。
担当裁判官は、B社が過去にも労働契約紛争で起訴されていたことを知り、当時の開廷審理の記録を取り調べ、法廷で、過去に被告であるB社は原告である労働者らが陳述した3日間勤務、1日休み、早番は朝7時から夜7時まで、遅番は夜7時から翌朝7時までの勤務事実を認めていたことが判明した。
B社は、上記の証拠の前に担当裁判官のもとで調停手続に同意し、A氏を含め23名との間で、1人ずつ残業代5,000元を支払う和解協議に合意し、23名労働者は起訴を撤回した。
四.コメント
1.民事訴訟の証拠の規則により、当事者が法廷で相手から示された自分に不利な事実や証拠に関する自認、或いは自ら自分に不利な事実または証拠に関する陳述はすべて「自認」とする。
法廷上自認した後、自認を覆すことはできない。本案の担当裁判官はまさに民事訴訟の「自認」の証拠規則を生かし、和解によって裁判に至る前に速やかに解決へと導いた。
2.「上海市企業賃金支払い弁法」第十三条第二款により、法により歩合給制を取る労働者に法定標準勤務時間以外の残業を手配する場合、歩合単価を調整しなければならない。即ち、時間給制の残業代計算基準は1時間当たりの収入をベースとする150%~300%に対して、歩合給制の残業代計算基準は歩合単価をベースとする150%~300%と決まっている。
3.歩合制勤務状況は給与報酬方式の変更にすぎず、勤務時間の標準を変更するわけではない。中国では毎週40時間勤務制を実行し、40時間を上回った勤務は残業に属するものとすべきである。
4.歩合制の労働者に、企業が法定時間外に残業させる場合、上述3の原則に基づいて本人の法定勤務時間歩合単価を下回らない150%、200%、300%に合わせてその給与を支払わなければならない。
5.実務上、残業特に歩合勤務制の残業問題については、労働争議が多発しており、歩合制を採用している企業はその残業代のリスクに留意してほしい。
※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事を一部加筆修正したものです。