第12次5カ年計画の概要と日系企業への影響
「2011年3月14日、中国の第12次5カ年計画(2011~15年)が全国人民代表大会(全人代)で採択されました。計16編62章から成るこの計画は、世界第2位の経済規模に発展した中国が今後目指す方向性を示している一方で、内在するさまざまな矛盾の解決を急ぐ姿がみえてきます。また、上海市では2011年1月21日に「上海市国民経済と社会発展第12次5カ年計画概要」が人民代表大会で採択されました。これは、昨年10月に中国共産党が起草した「国民経済・社会発展第12次5カ年計画の制定に関する建議」に基づいて作成されたもので、上海市のこれからの5カ年の発展の将来図を描いたものです。
国家レベルの第12次5カ年計画の概要を紹介し、日系企業へ与える影響を考察してみます。また、上海市の第12次5カ年計画の概要を紹介します。
中国の第12次5カ年計画の概要
この計画は、初めに従来からの問題点を挙げたうえで、指導思想として経済発展方式の転換を掲げています。すなわち、バランスを欠いた投資と消費関係、収入配分格差の拡大、低い科学技術革新能力、脆弱な農業基盤、都市と農村の不均衡拡大、物価上昇圧力の増大、社会矛盾の増加などの問題点を列挙したうえで、今後の指導思想として経済発展方式の転換の基本原則を謳っています。経済発展方式の基本原則とは、経済構造の戦略的調整、科学の進歩と革新、民生の保障と改善、資源節約型・環境に優しい社会の建設、改革開放であり、これらを柱として主要目標が明記されています。
温家宝首相が行った「2011年政府活動報告」を基に以下に主要目標と主な内容を列挙してみます。
1. 経済発展の水準を新たな段階に引き上げる
- 今後の5年間、経済成長率(GDP)の目標は質と効率の明らかな向上を踏まえた上で、年平均7%とする。
- 引き続きマクロコントロールを強化・改善し、物価総水準の基本的な安定を維持する。
- 内需拡大の戦略を実施し、消費・投資・輸出がバランスをとりながら経済成長を押し上げるような新しい局面の構築を速める。
2. 経済発展方式の転換と経済構造の調整を加速する
- 中国の特色ある新しいタイプの工業化の道を歩み、情報化と工業化の高度な融合を促進し、製造業の改造とグレードアップに取り組み、戦略的な新興産業を育成し発展させる。
- サービス業の付加価値のGDPに占める割合を4ポイント引き上げる。
- 都市化率を47.5%から51.5%に引き上げる。 ・インフラ整備を引き続き強化する。
- 現代的農業を大いに発展させ、社会主義の新農村づくりを加速させる。
3. 社会的事業の発展に大きな力を入れる
- 教育水準を優先的に発展させる方針を堅持し、全国の教育水準を着実に引き上げる。
- 科学技術革新システムへの支援政策を推進する。
- 研究開発費支出のGDPに占める割合を2.2%に高める。
- 人材の育成を強化し、資質の高い人材の大規模な陣容づくりに努める。
4. 資源の節約と環境保護をしっかり推進する
・資源の節約と管理を強化し、資源保障能力を高め、耕地保護と環境保護に一層力を入れて取り組む。 ・水利インフラ整備を確実に強化し、基本農地の灌漑と水資源の効果的利用の水準および防災の能力を著しく向上させる。
5. 人民の生活を全面的に改善する
- 雇用創出を経済・社会発展の最優先目標とし、労働者のために公平な雇用機会を創出し、今後5年間の都市の新規就業増加を4,500万人増やす。
- 労働に応じた分配を主体とし、経済発展と同じペースで住民所得の増加を図り、労働生産性の向上と同じペースで労働報酬を引き上げるようにする。
- 都市部住民の一人当たり可処分所得と農村住民の一人当たり純収入それぞれの年平均実質伸び率を7%超とする。
- 社会保障制度の充実を急ぎ、保障水準をいっそう引き上げる。
- 計画出産という基本的国策を堅持し、関連政策を完備させ、平均寿命を一歳のばし74.5歳とする。
6. 改革開放を全面的に深化させる
・経済体制改革を大いに推進し、政治体制改革を積極的かつ穏当に推進する。 ・財政・税制・金融体制の改革のテンポを速め、積極的に経済発展パターンの転換に寄与する財政・税制を構築する。 ・管理監督のもとでリスクコントロールできる金融システムを構築する。 ・一層積極的かつ能動的な開放戦略を実施し、国際協力と国際競争に参加する新たな優位性を育成し、互恵・Win‐Winの枠組みを加速する。
7. 政府自身の改革・建設を不断に強化する
- 政府の権力はすべて人民によって与えられたものであり、人民に対して責任を負い、人民のために利益を図り、人民の監督を受けなければならない。
- 権力が過度に集中しながら制約されていないという状況を制度面から是正し、断固として腐敗を取り締まり、それを予防しなければならない。
以上、やや分かりづらい表現もありますが、興味深い内容としては、まず第11次5カ年計画期間中(2006~10年)年平均11.2%であったGDP成長率を第12次5カ年計画の目標では7%とし、経済成長の質と効率の向上を重視していることが挙げられます。そのために経済発展方式の転換と経済構造調整を加速させるとしており、具体的には戦略的な新興産業の育成、サービス業の発展、現代的農業の発展などを謳っています。他に興味深いキーワードとしては、資源の節約と環境保護、人民生活の改善、合理的な所得分配、改革開放などが挙げられます。雇用創出、所得格差、都市と農村の格差、社会保障制度の充実など中国が抱える社会問題に対して積極的に解決を図っていく姿勢は、調和のとれた社会を構築しよう意向が汲み取れます。つまり、国家が人民の生活を改善することで、社会の安定を構築しようというものです。
日系企業へ与える影響
第12次5カ年計画は経済発展方式の転換を推進し、内需拡大、経済格差の是正を重要課題として掲げています。これらは、消費拡大を重要戦略として位置づけ、輸出依存を減らし内需拡大を図ることであり、日系企業など外国企業にとっては対中輸出や中国内販でのビジネスチャンスが広がる可能性があります。
上海証券報によると、中国政府は内需主導の経済構造への転換を目指し、2015年までの5年間で国内消費を30兆元(約380兆円)以上に倍増させる目標を盛り込んだ「国内貿易発展計画」をまとめました。消費拡大に焦点を絞った計画の策定は初めてで、2011年4月末にも発表される見通しです。家電、自動車、オートバイ、建材などを中心に毎年3兆元規模で社会消費品小売を拡大させる計画であり、量だけではなく消費の質を向上させるため、ブランド品など中高級品の消費拡大を目指す方針も明記されました。日系企業にとってもこの計画に伴う市場価値の拡大により、商機が高まる可能性が予想されます。
一方で、住民所得の増加や社会保障の拡充などは外国企業にとっては賃上げによるコスト増という面ではデメリットとなることが懸念されます。人件費以外のコスト削減か、または人件費の増加分を販売価格へ転嫁できなければ、生産拠点の見直しなども迫られる可能性がでてくるでしょう。
上海市国民経済と社会発展第12次5カ年計画の概要
上海市国民経済と社会発展第12次5カ年計画概要(2011~15年)は中国共産党が起草した「国民経済・社会発展第12次5カ年計画の制定に関する建議」及び中国共産党上海委員会が起草した「上海市国民経済と社会発展に関する第12次5カ年計画の建議」に基づいて作成されたもので、上海市の今後5カ年の発展と将来像、行動綱領を示したものです。経済調整、市場管理、社会管理及び公共サービスの職責を履行する際の重要な根拠となります。
全16章から構成されており、第1章で過去5年間の達成状況が、第2章で今後5年間の指導思想と主要目標が、そして第3章以降で具体的な目標が示されています。指導思想の中で繰り返し示されていることは、科学的発展の堅持、戦略的な新興産業の育成、民生の保障と改善、改革開放の進化、社会の調和、教育などであり、いずれも中央の計画に準じた格好となっています。
第3章以降では具体的な目標が示されており、主なポイントは以下の通りです。
- 4つのセンター(国際経済、金融、貿易、港運)の構築を加速
- 時代に適応する産業システムの構築(戦略的な新興産業の発展)
- 都市と農村部の調和
- 自然と調和した住みやすい都市づくり
- 社会保障システムの拡充
- 魅力ある国際文化都市の創造
- 改革開放の促進
おおよそ国家の第12次5カ年計画と同様なキーワードで目標が示されていますが、特徴としては2020年までに国際的に相応しい経済資源と地位を有する「4つのセンター」の構築の推進を第一に掲げていることです。国際金融センターの構築、水上運輸サービスの向上、国際貿易の中核化を図り、国際経済の中心となることを目指しています。