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無断欠勤の従業員を除名した会社はなぜ敗訴したか

一.事実経緯

 ある医療機械会社(以下、A社という)の従業員(以下、B氏という)は、2009年6月12日から同年7月末まで、無断欠勤した。A社はB氏が正当な理由なく15日以上欠勤したことを理由にA社の就業規則に基づき、B氏を除名することを決めた。2009年8月3日、A社は従業員大会でB氏の開除(開除に当たる日本語は追放)決定を公布した。B氏はその決定を不服とし、A社所在地管轄の区労働争議仲裁委員会に訴えた。

二.仲裁裁決

 仲裁委員会は、開廷審理を経て、B氏の訴えを支持し、A社に対しB氏との労働契約を継続履行するよう命じた。

三.A社の見解

 A社は、B氏の無断欠勤の事実は明白であり、その行為は法律およびA社の就業規則における「除名」の基準を満たしており、A社がB氏に対し「開除」の決定を下した後、双方の労働契約を終止させた行為は決して不当ではないと考えた。

四.仲裁員の解釈

 仲裁員はA社の裁決に関する疑問について以下の通り解釈した。

 「除名」とは、使用者が「企業従業員賞罰条例」(国発「1982」59号)の規定に基づき、使用者が正当な理由なく欠勤した従業員と労働関係を終了させる一つの処理方法である。除名に必要な条件は以下の通りである。

①従業員が正当な理由なくよく欠勤している。

②叱責及び教育しても改心がない。

③規定の欠勤日数、即ち無断欠勤が15日以上連続する、或いは1年以内の欠勤日が合計30日を超える

 一方、「開除」とは、「企業従業員賞罰条例」に基づき、就業規則に違反している従業員に対して出される最も厳しい行政処分であり、厳重な規律違反者に対し、主に以下のいずれかの一つに当たる場合に適用される。

①刑事判決を受け、刑務所に服役している。

②二回強制労働教育で都市戸籍が抹消されている。

③職務とどめ監察(※1)期間中に依然として改心がない。

④「企業従業員賞罰条例」第11条(※2)に掲げる違反行為のいずれかに該当する場合。

 しかしながら、企業が享有する規律違反、違法の従業員に対する「除名」および「開除」の権利は、前述の「企業従業員賞罰条例」に拠るものではあるが、該当の「条例」は2008年1月15日付国務院第516号令により廃止された。従って、企業の現行就業規則における「除名」或いは「開除」は不適法であることは明らかである。

五.コメント

1.実務上、企業は「除名」或いは「開除」の名目で規律違反、違法の従業員に処分の決定を下し、双方の労働関係を終止させようとしても、従業員は大抵労働仲裁に提訴を起こし、企業の就業規則の不備、法による根拠の乏しさによって、企業に敗訴のリスクを負わせてしまったケースが多く見られる。従って、企業は社内規則を制定する際、「除名」や「開除」などの条項を回避し、「労働法」第25条(※3)及び「労働契約法」第39条(※4)、同第40条(※5)により、使用者が労働契約を一方的に解除できる法的な根拠としておくべきである。

2.本案のA社は、B氏と労働契約を解除しようとする場合、会社の就業規則を完備した上で関連法規に基づいて、B氏に対して「開除決定」ではなく、「労働契約解除通知書」を下すべきである。

 

(※1)職務とどめ監察

 1982年4月10日に公布された「企業従業員賞罰条例」第14条が規定した用語です。従業員に職務にとどめ監察するという処分を与えた場合、監察期間は1年間から2年間とします。職務とどめ監察期間中、給与支払いを中止して生活費を支給します。当該生活費の基準は従業員本人の給与を下回らなければならず、その具体的な基準は企業が決定します。職務とどめ監察期間満了後、従業員に改心がある場合、正社員として継続勤務することができ、給与の基準は新たに評価されます。従業員は依然として改心が無い場合、開除処分にします。

(※2)「企業従業員賞罰条例」第11条

 下記の状況のいずれかに該当する従業員に対し、叱責及び教育しても改心がない場合、違反行為の状況によって行政処分或いは経済処罰を与えなければならならない。

(1)労働規律に違反したり、常に遅刻、早退、無断欠勤および仕事を怠ったりすることにより、生産任務或いは業務任務を遂行することができない。

(2)正当な理由なく業務手配、職務調整および指示に従わず、或いは正当な理由なく喧嘩をしたり、他人を集めてトラブルを起こしたり、殴り合うことで生産秩序や仕事秩序及び社会秩序に影響を与えた。

(3)職務懈怠で技術操作規程及び安全規程に違反したり、或いは関連規定に従い指示を与えないことにより事故を起こし、人民の生命や財産に損失を与えた。

(4)業務上の不注意で常に不良品を出したり、設備工具を破損したり、原材料やエネルギーを無駄にすることで経済損失を与えた。

(5)職権を濫用して政策法令や財政規律に違反し、脱税や納付拒否、納付すべき利益を横領し、国の財産や資産を浪費し、私利を図るために公共財産を損害することで国や企業に経済損失を与えた。

(6)横領と窃盗、密輸と密輸品販売、収賄と贈賄、恐喝及びその他法令規律に違反する行為。

(7)その他厳重な違反行為。

 従業員が上記のいずれかに該当する情状が厳重で刑法に違反する行為をする場合、司法機関は法により処罰を与えるものとする。

(※3)「労働法」第25条

 労働者に下記のいずれかに該当する場合、雇用者は労働契約を解除することができる。

(1)試用期間中に採用条件に合致していないことが証明された場合

(2)労働規律或いは雇用者の規則制度に甚だしく違反した場合

(3)厳重な職務怠慢、不正利得行為により雇用者に重大な損害を与えた場合

(4)法により刑事責任を追及された場合

(※4)「労働契約法」第39条

 労働者に下記のいずれかに該当する場合、雇用者は労働契約を解除することができる。

(1)試用期間中に採用条件に合致していないことが証明された場合

(2)雇用者の規則制度に甚だしく違反した場合

(3)厳重な職務怠慢、不正利得行為により使用者に重大な損害を与えた場合

(4)労働者が同時に他の使用者と労働関係を形成し、本使用者の業務任務の完成に甚だしい影響を与えたか、又はそれを使用者が指摘しても是正を拒否した場合

(5)本法第二十六条第 1 項で規定する状況により労働契約が無効とされた場合

(6)法により刑事責任を追及された場合

(※5)「労働契約法」第40条

 下記のいずれかに該当する場合、使用者は 30 日前までに書面により労働者本人に通知するか、又は労働者に対し 1ヶ月の賃金を余分に支給した後、労働契約を解除することができるものとする。

(1)労働者が罹病又は業務によらない負傷により、規定の医療期間満了後も元の業務に従事することができず、使用者が別途手配した業務にも従事することができない場合。

(2)労働者が業務を全うできないことが証明され、職業訓練又は職場調整を経てもなお業務を全うできない場合。

(3)労働契約の締結時に依拠した客観的な状況に重大な変化が起こり、労働契約の履行が不可能となり、使用者と労働者が協議を経ても労働契約の内容変更について合意できない場合。

 

※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事を一部加筆修正したものです。