通勤途中の労災認定について
一.事実経緯
A氏とB氏はある石油会社の従業員であり、勤務時間は8時~17時半(うち休憩時間は12時~14時)だった。A氏とB氏は通常、会社手配の送迎バスで通勤し、退勤時は約30分かけて18時前後に帰宅する。
2007年6月19日、A氏とB氏は、退勤後、会社の通勤バスで帰宅せず、会社でC氏と合流した後、18時20分頃にC氏と三人で会社近くのレストランに食事に行った。食事中、A氏はビールを飲んだ。19時30分頃、A氏はB氏を乗せ飲酒運転で車を運転し、帰宅途中で交通事故に遭い、A氏とB氏は即死した。交通管理部門は、A氏が飲酒運転で対向車線を占用したために発生した事故でありA氏が主要責任を負うとした。相手方のトラック運転手にも事故の責任があり、B氏の責任はないと認定した。
事故後、A氏とB氏の遺族は地元の労働保障部門に労災認定を申請した。
二.裁判判決
労災保障部門は、受理後の調べで上記の事実を確認し、関連規定に基づき、「出退勤途中」については、一般的には通勤ルート、勤務時間及び通勤に必要な時間という三つの要素を基準として判断すべきであると認定した。通勤に必要な時間とは、本人が選んだ通勤ルートと通勤手段で会社から自宅までに必要な時間を指す。本件において、A氏とB氏は18時20分頃に会社を離れ、19時30分頃に事故に遭っており、通常の通勤時間より多くの時間を有している。「労災保険条例」第14条第6項(※1)に定める「出退勤途中で自動車事故に遭う」に基づき、A氏とB氏の死亡を労災として認定することはできないと労災保障部門は認定した。
A氏とB氏の遺族は判決を不服とし、行政不服審査、行政訴訟一審及び二審を提訴した。「出退勤途中」については合理的な時間延長と合理的な通勤ルートを含まなければならず、A氏とB氏が退勤後同僚と一緒に食事に行ったことによる時間延長は合理的であり、今回の交通事故を労災として認定すべきであるとA氏及びB氏の遺族は主張した。
二審の裁判所は、A氏とB氏の退勤から事故発生時までの時間が通常の帰宅までの時間と比べて長すぎることから、通勤に必要な時間として認定することはできないとした。
三.コメント
一般的には、「出退勤途中」とは、会社から自宅までの必要な通勤時間と合理的な通勤ルートを指す。必要な通勤時間とは、多くの人が受け入れられる時間を指し、合理的な通勤ルートとは、多くの人が受け入れられるルートを指すべきである。
通勤時間については、従業員が退勤後会社で10分~20分程度かけて私物を片付けることなどをした場合は、それを合理的な通勤時間に含めることができる。1時間或いは2時間かけて私的な事をした場合にそれを合理的であると認定するのは、多くの人にとっては受け入れられない。
通勤ルートについては、出退勤の途中で子供を学校まで送ったり、買い物に行くなど他の用事を済ませた場合は、それを合理的な通勤ルートと認定することができる。退勤後友人と一緒に食事に行くためのルートを通勤ルートと認定するのは不合理である。
上記通勤時間と通勤ルートの推定について、十分な証拠がある場合はその証拠を利用して「出退勤途中」と認定することが必要である。変動できる時間とルートの確定については時と場合によって異なる。また、従業員の住所については主要住所で労災の有無を認定する必要がある。
(※1)「労災保険条例」第14条第6項
第14条 従業員に下記のいずれかがある場合、労災と認定すべきである。
(6)出退勤途中に自動車事故で傷害を受けること。
※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事を一部加筆修正したものです。