業務員が締結した協議書は有効か
事実経緯
- 2010年1月2日、A社(原告) は、B社(被告) と売買契約を締結し、A社が毎月B社に対して鋼材を提供する一方、 B社が毎月20日を締切日として前月分の購入代金をA社に支払うことで合意に達した。
- 売買契約の履行につれて、B社のA社への未払い代金が合計で50万元に達した。
- A社はB社に対して何度も代金の支払いを催促したが、不調に終ってしまったために、裁判所にB社を訴えて代金返済を求めた。
- 法廷審理中、B社は、A社の提供する鋼材の品質問題に関してA社の業務員(以下、C氏という) がA社を代表しB社に対して35万元を賠償するという趣旨の協議書1部を開示し、それを証拠として、A社の請求する代金から該当賠償金35万元を差し引くことを要求した。
審理結果
裁判所は、A社がB社の開示した協議書そのものの信憑性を否認したこと、B社がA社のC氏に対する協議書の署名を授権した事実を立証できないことを根拠として、B社に対しA社へ未払い代金50万元を一括で支払うよう判決を下した。
コメント
- C氏の行為は代表行為に属しない
いわゆる代表行為とは、法人或いはその他の組織の法定代表人または責任者が実施した行為である。法人における全ての構成員が法人の名義で対外的に経営活動に従事できるとは限らない。法律、定款に決めた法人を代表し経営活動に従事できる人を除き、法人におけるその他の人員が法人の名義で経営活動に従事する際には法人による委託授権を取得し、代理人の身分で法人を代理し経営活動に従事しなければならない。
本案では、B社は、C氏がA社の法定代理人または定款に決めた法人を代表し経営活動に従事出来ることを立証できないだけでなく、該当事項処理をC氏に一任するA社の授権委託書の提出もできなかった。よって、C氏は代表人の身分でA社の事務を処理できず、またその行為は代表行為に属さない。 - 本案は表見代理を構成しない
本案のC氏はA社より授権委任状を交付されたことはない。従って、B社は、C氏がA社から授権されていたことを立証する合理的な理由を構成できず、中国の契約法第49条に決めた表見代理の成立を満たす条件を具備していない。 - 協議書はA社に効力が生じない
本案では、B社が協議書を否認した状況下で、C氏がA社の授権を得ずにA社を代表して締結した協議書はA社に対して効力は生じない。故に、A社の請求する代金から賠償金を差引くというB社の答弁は成り立たないものとする。
※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事です。