なぜ賠償制限条款が無効とされたか? -運送上のトラブルを巡って-
事実経緯
- 2010年1月20日、某玩具製造会社が上海海陽貨物運営代理有限公司(以下、原告と称する。)に300箱玩具を蘇州から天津まで運送することを依頼。
- 貨物運送を上海天達物流有限公司(以下、被告と称する)に再委託。
- 被告の担当運転手は上海から天津へ運転する途中、暴風雨が車両のカバーシートの一部を吹き飛ばしたことに気づかず、玩具が濡れてしまった(損害額150万元余)。
- 原告は損害を受けた貨物を補修し、受取人三社及び依頼人に対して30万元余を賠償した。その後、原告は被告に賠償を請求したが、被告は双方が書名した運送状の裏面に決めた協議事項により、発送者が「価値付保」をしておらず、貨物が破損しても、運送公司は貨物運送費により補償し、その金額は多くても運賃と同額を超えないと断った。
- 2010年末、原告と被告との間で被告が原告の為に貨物を運送し、運送費を損失に充てる方式により、原告の損失した15万元を相殺することで合意。
- しかし、その協議が履行されず、原告は被告を裁判所に訴え、40万元余を請求した。
判決の趣旨
- 貨物運送状の裏面にある「協議事項」第一条が賠償制限条款に該当
- しかし、該当条項があらゆる状況下において貨物破損賠償に適合するわけではない
- 運送人の故意または重大な過失によって貨物に毀損または滅失をもたらした場合は、たとえ賠償制限条項が有効かつ合法であっても、該当条項を適用し賠償金額を確定することは出来ない
- 本案では、被告は保険会社に提出した事故報告の中で注意不足を認めたため、賠償制限条款を適用せず、従って被告に対し貨物損失の賠償として原告に15万元を支払うよう判決を下した。
ポイント
- 「賠償制限条款」はどこまで適用されるか
「賠償制限条項」は運送契約における一般的な格式条款として、運送業務上よく使われている。現実に依頼者が貨物に「価値付保」をつけなかったことを理由に、「賠償制限条項」を悪用し、賠償責任を逃れようとする運送業者は決して少なくない。しかし、本案のように運送人の「業務上故意または重大な過失」が立証された場合、必ずしも「賠償制限条款」により賠償金額が制限されるとは限らない。 - 係争貨物の損失金額はいくら?
本案では原告は、玩具の損失額と、委託者および受取人に対して賠償した金額の合計40万元で計算すべきと主張したが、裁判所は貨物損失の数量、程度,価値に関する直接的な証拠を原告が有しておらず、大多数の修復した玩具を受取人が受取ったことに鑑み、原告の要求する賠償の根拠が乏しいと判断した。 - 締結した「協議書」は有効か
本案にかかわる該当協議書は最終的に履行されなかったが、効力を失わず、且つ双方がある程度当時客観的損失を認めたことを反映し、貨物の実損金額を評価できない状況で、双方の当時の真実の意思を尊重すべき。 - トラブル防止策
貨物運送のトラブルが発生した場合、国家郵政総局に申し入れ或いは民事訴訟の方式によって同質の賠償を求めることが出来るが、現行関連法律の整備の不十分さもあって、類似の民事裁判の判決は地域によってかなり幅があるようである。従って、貴重な貨物を運送する際は、「価値付保」をするほか、貨物の価値を明確にするために、運送状に貨物の内容、名称など詳細に記入すべきである。
※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事です。