重要法規解説~最高人民法院の民間貸借案件審理における法律適用の若干問題に関する規定~
2015年6月23日、「最高人民法院の民間貸借案件の審理における法律適用の若干の問題に関する規定」(以下、「本規定」という)が、最高人民法院審判委員会第1655回会議で審議採択され、同年9月1日より施行されている。本規定は33条から構成されており、その主な内容は以下の通りです。
一.背景
中国における民間貸借の活発、貸借規模の拡張に伴い、その貸借のトラブルが多発し、全国において裁判所が結審した民間貸借紛争案件数は急増している。統計によれば、2011年の59.4万件から2015年上半期は、前年同期比20%増の52.6万件まで増加した。案件数は、婚姻案件数に次いでおり、訴訟金額も年々増加し、社会問題として大きく取り上げられている。民間貸借の乱発の阻止、P2P インターネット貸借プラットホームの無秩序の規制に乗り出した当局は、金融システムの安定化を図るため、本規定を公布した。
二.民間貸借行為及びその主体の範囲、受理と管轄の明確化
本規定における「民間貸借」とは自然人、法人、その他の組織の間で行われた資金融資の行為を指し、貸借主体の適用範囲において金融機関と区別し、起訴条件、民間貸借契約の履行地の確定及び保証人の訴訟地位等の民間貸借案件の受理と管轄を定めている。
三.民間貸借が民事案件及び刑事案件に関わった場合
不法集金案件に関わった民間貸借案件については、人民法院は受理せず、又は起訴を棄却し、且つ不法集金犯罪の手掛かり、資料を公安又は検察機関に移送する。但し、借主が不法集金等の犯罪に関わった、又は発効済み法律文書が有罪と認められ、貸主が担保人に対し民事責任を負うよう起訴した場合は、人民法院はそれを受理する。
四.民間貸借契約書の効力の明確化
自然人の間で締結された民間貸借契約の発効要件を明確にした。すなわち、企業の間で生産、経営のために締結された民間貸借契約は「契約法」第52条に該当し、また本規定第14条に違反しない限り、その効力が認められる。企業が生産、経営のために企業内部で借金の形で従業員から集金するために締結した民間貸借契約は有効とする。借主又は貸主の貸借行為が犯罪に関わり、又は発効した判決が犯罪を構成すると認められた場合は、民間貸借契約が必ずしも無効とは限らず、「契約法」第52条及び本規定第14条の規定に基づいて民間貸借契約の効力を確定しなくてはならない。
五.インターネット貸借プラットホームの責任負担の明確化
貸借双方によってP2Pインターネット貸借プラットホームを通じて形成された貸借関係に対して、当該プラットホームの提供者は媒介サービスのみを提供する限り、担保責任を負わない。但し、その提供者がホームページ、広告又はその他の媒介による明示、又はその他の証拠をもって貸借に担保を供すると証明された場合は、貸主の要求に応じて、人民法院はp2pインターネット貸借プラットホームの提供者に担保責任を負わせるよう命じることができる。
六.民間貸借契約と売買契約との混同状況の認定
当事者が売買契約の締結を通じて民間貸借契約を担保し借金の期限が切れた後、借主が返済できず、貸主が売買契約を履行するよう請求した場合、人民法院は民間貸借法律関係を基準として審理を行う。民間貸借法律関係を基準として出された判決が発効後、借主が発効済み判決に基づく金銭義務を履行しない場合、貸主は債務の返済に充当するため売買契約の対象物の競売を申し立てることができる。
七.企業間の貸借の効力認定
企業が生産、経営の必要に応じて相互に貸借する場合、司法は保護を与えるべきである。同時に、企業間の貸借を無効と認めるべきとし、その他の情状を明確に定めている。
八.民間貸借契約を無効と認めた場合
下記のいずれかに該当する場合、民間貸借契約を無効と認める。
1.詐欺の形で金融機関から融資金を調達し高利で借主に貸し、且つ借主が事前に知った、又は知るべき場合
2.その他の企業に貸借、又は本企業の従業員から集金することで調達した資金を借主に貸し、且つ借主が事前に知った、又は知るべき場合
3.貸主は借主が借金を違法犯罪行為に使用することを事前に知った、又は知るべき場合、依然として借金を提供する場合
4.社会公序良俗に違反する場合
5.その他の法律、行政法規の効力があり、強制的な規定に違反する場合。
九.虚偽の民事訴訟の予防と取締への強化
虚偽の民間貸借訴訟と認め得る十種類の情況が列挙されている。また、審理を経て虚偽の訴訟と認められた場合、人民法院は原告の請求を棄却すると判決した上で、悪意を以って虚偽の訴訟を捏造、参加した訴訟参与人に対し、本規定の内容に基づいて法により罰金、勾留に処す。犯罪を構成する場合、管轄権を有する司法機関に移送して刑事責任を追及する。
十.民間貸借の利率と利息の明確化
貸借双方が利息を約定せず、又は自然人間の貸借利息に関する約定が不明な場合、貸主は借主に対し、貸借期間中の利息を主張する権利を有さない。貸借双方が約定した利率が年間24%を超えない場合、貸主は借主に対し、約定した利率に基づく利息を支払うよう請求できるが、貸借双方が約定した年利が36%を超える場合、超過した部分の利息は無効と認めるべきであり、借主が貸主に対し、既に支払った、年率36%を超える部分の利息を返済するよう請求することができる。予め元金から利息を控除する場合、人民法院は実際に貸した金額を元金と認めるべきである。貸借双方が別途に約定した場合を除き、借主は前もって借金を返済することができ、且つ実際の貸借期間に基づいて利息を計算する。
十一.新主要法令
№ |
法 律 名 称 |
施行日 |
1 |
最高人民法院の民間貸借案件審理における法律適用の若干問題に関する規定 |
2015/09/01 |
2 |
国家税務総局の「一部税務行政許可事項取消後の関連管理問題に関する公告」 |
2015/08/03 |
3 |
国家発展改革委員会、財政部、国土資源部などの「都市駐車施設建設の強化に関する指導意見」 |
2015/08/03 |
4 |
国務院の「融資担保業界の発展加速化の促進に関する意見」 |
2015/08/07 |
5 |
全人代の「「中華人民共和国科学技術成果促進転換法」の修正に関する決定」 |
2015/08/29 |
6 |
最高裁の「民間貸借案件を審理する為の法律適用若干問題に関する規定」 |
2015/09/01 |
7 |
国家食品薬品監督管理局の「食品経営許可管理弁法」 |
2015/10/01 |
8 |
国家食品薬品監督管理局の「食品生産許可管理弁法」 |
2015/10/01 |
9 |
全人代の「中華人民共和国刑法修正案(九)」 |
2015/11/01 |
※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事を一部加筆修正したものです。