ネット通販の訴訟管轄地はどのように決まるか
一.事実経緯
近日、A氏はネット通販プラットホーム運営会社(B社)にある店舗で購入した商品の品質問題を理由に、当該店舗とB社を被告としてC裁判所に起訴した(以下、「本件」という)。C裁判所が本件を受理した後、B社から管轄権異議書を受け取った。
B社は、全ての消費者はB社の運営するプラットホームを通じて買い物をする前にネット上で、「同意且つ登録する」というアイコンをクリックし、登録するのが前提となっており、その際に、「消費者とB社が運営するプラットホームの経営者はいずれも被告所在地の法院を第一審管轄法院とすること」に同意しており、本件においては、上記合意管轄をもとにB社所在地のD裁判所を第一審管轄裁判所とすべきと主張した。
二.判決
裁判所は、審理を経て、次のとおり判決を下した。
1.2015年2月4日より施行されている「最高人民法院の中華人民共和国民事訴訟法の適用に関する解釈」(以下、「民訴法解釈」という)第31条には、「経営者は定型条項を用いて消費者と合意管轄をする場合、合理的方式により消費者に注意を促さず、消費者が当該合意管轄を無効と求める場合、人民法院はこれを支持する」と規定している。
本件において、B社が提供した「同意且つ登録する」というアイコンのクリックは原告の「サービス協議」の内容に対する同意と見なされるが、当該アイコンをクリックする際に「合意管轄」の具体的な内容は明示されておらず、別途「サービス協議」を閲覧しなければならない。且つ当該「サービス協議」の内容は複雑で「合意管轄」条項を大量の条項から見出すことが困難である。
民訴法解釈に定める「合理的方式により消費者に注意を促す」とは、通常は明確且つ目立つ方法で一般の民事主体にその権益と利害関係のある情報を容易に入手させることを指す。本件おいては、B社が上記方式で提供した「合意管轄」は上述基準を満たしていない。「中華人民共和国契約法」第40条には、定型条項の提供側が自らの責任を免除し、相手側の責任を加重、又は相手側の主要権利を排除したとき、当該定型条項は無効とすると規定している。ネット売買に関しては、原告あるいは多くの消費者が購入する商品価格は安く、その所在地又は契約履行地はB社と遠く離れていることが多い。当該合意管轄を有効とすれば、消費者は商品価格より高い移動代や時間上のコストを費やすこととなり、消費者の訴訟権利を阻害する恐れがある。
2.合意管轄は無効とすれば、契約紛争によって提起した訴訟は被告所在地又は契約履行地の裁判所が管轄することになっている。民訴法解釈第20条に基づき、情報ネットワークの方式で締結した売買契約については、その他の方式で目的物を交付した場合、荷受地を契約履行地とすると規定している。本件に係る売買契約の荷受地はA氏の所在地であるので、C裁判所はB社の管轄権異議を却下した。
三.コメント
1.「契約法」第39条には、定型条項を用いて契約を締結する場合、定型条項の提供側は、公平の原則に従い、当事者間の権利や義務を確定し、合理的方式で、その責任の免除或いは制限に関する条項に注意を促し、相手側の要請に従って、当該条項について説明しなければならないと定められている。従って、定型条項の提供側は、定型条項の解釈に際し、取引相手方の合法的権益を守るよう配慮し、相手への周知不足により、その権利を排除される不利な局面を避ける必要がある。
2.過去の司法判決においては、契約の管轄合意が定型条項に依るか否かについては意見が分かれていた。「民訴法解釈」の公布は、法律の統一適用に規範根拠を与えた。従って、ネット通販サービスの経営者、提供側は定型条項を通じて消費者と契約を締結する場合、管轄合意の内容について適切な提示や一定の説明が義務付けられている。
3.一般的には、文字の字体、色などの明らかな特徴で管轄条項をその他の一般的条項と区別しやすくすれば、提示義務は履行済みと見なされている。同時に、管轄条項が比較的複雑で一般の消費者が分かりにくい場合、ネット通販プラットフォームは必要な措置を取りサービス協定に定める文言又は当該合意が生じた法的効果について説明を行わなければならない。このような提示、説明義務を行わない場合、契約で定める管轄合意は無効とし、これを理由に消費者の訴訟権利を制限することはできない。
※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事を一部加筆修正したものです。