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提訴後訴訟費用を払わず、訴訟時効はどうなるか

1、事実経緯

 A氏は、上海のある建設会社の経営者であり、2009年、友人の紹介で市外のある工場の土建工事を請負った。その工場の経営者であるB氏は資金繰り難でA氏から220万元の借金をした。その後、A氏は土建工事を着手できないので、調べたら、その土建工事は全く架空の事だと分かった。A氏に何回も催促されたB氏は、借金を返済すると約束したものの、実際には、最初から返済しないつもりだった。A氏は多額な訴訟費用などを恐れることによって、提訴に踏み切れなかった。二年の訴訟時効の期間満了前に、A氏はB氏に提訴し、訴状を提出した後訴訟費用を納付しないことによって訴訟時効の中断の効力が生じることができると、ある「達人」から助言を得た。

2、裁 定

2011年、A氏は、B氏の戸籍地(浙江温州)にある裁判所に提訴し、B氏に対し借金を返済するよう請求した。裁判所は、金銭借貸紛争として立案した後、訴訟費用納付通知をA氏に、訴状をB氏にそれぞれ送達した。A氏が訴訟費用を納付しない決意だったため、裁判所は審理を行わず、A氏が自動的に訴訟を撤回するとの裁定を下した。

2013年7月、A氏は再び裁判所に提訴した。裁判所は前回の教訓を受け、B氏に訴状を送達せずに、A氏のみに訴訟費用納付通知を送達し後、A氏が自動的に訴訟を撤回するとの裁定を下した。

3、最高裁の意見

 本案での上記二回の訴訟撤回は訴訟時効の中断の効力を生じさせるか、今後再度提訴したら勝訴する可能性があるかについて、検討してみよう。

 本案について、最高裁が公布した審判業務意見は次の通り解釈する。当事者が提訴しても法により訴訟費用を納付せず、催促されても納付する意思はなく、裁判所が訴訟撤回を裁定した場合、訴訟時効の中断の効力が生じない。訴訟撤回とは当事者が自らの意思で起訴に起因する法的効果を放棄することを指し、当事者の訴訟権利に対する処分として、訴訟法上の「訴訟を撤回する場合、起訴しないと見なす」との訴訟原則に基づき、起訴に起因する法的効果を生じさせないことによって訴訟時効の中断の効力が生じないものである。

 訴訟時効の客体としての請求権は相対権であり、その法的効果を生じさせるためには自らの意思を相手方に送達しなければならない。権利者が裁判所に提訴することは、裁判所が請求権の相手方ではないため、当事者が既に請求権を行使したものと見なすことができない。裁判所が当事者の相手方に訴状を送付した場合のみに、請求権の意思表示が義務者に到達したものと見なすことができる。訴訟時効の中断の効力を生じさせる原因は起訴ではなく、裁判所の送達を通じて権利者の主張を義務者に承知させることである。

 本案において、当事者が催促されても訴訟費用を納付せず、裁判所が訴訟撤回を裁定した場合、特に二回目の訴状の複本が相手方に送付されなかった場合、A氏は訴訟方式も訴訟外の方式も行わなかったため、訴訟時効の中断の効力が生じないものとする。

4、コメント

 本案において、下記の二つの点に注意する必要がある。

 (1)B氏にお金を貸し出す前に、A氏は工事の真実性と関連情報を徹底的に調査しなかった。

 友人に紹介された工事でも慎重に調査を行わなければならない。特に保証金、立替金或いはお金を支払う必要がある工事に対して、土地使用権払下げ契約や、払下げ金など関連情報を収集することが必要である。 

 (2)詐欺の事実が発覚した後、直ちに効果的な措置を取らなければならない。

 詐欺の事実が発覚した後、警察への通報、または裁判所への提訴など、直ちに有効な措置を取らなければならない。タイミングを逃してしまうと、警察に通報しても信用されず、時効になると裁判所にも受理してくれず、せっかくの勝機を逸してしまった。従って、素人よりも、専門家の弁護士に聞いた方が良いかもしれない。

以 上

※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事を一部加筆修正したものです。