重要法規解説~「非居住者金融口座税金関連情報職責調査管理弁法」
国家税務総局は、2017年5月9日付で、「非居住者金融口座税金関係情報職責調査管理弁法」(以下、弁法という」を公布し、2017年7月1日より施行することを決めた。本稿では7章44条で構成された「弁法」の概要を以下のとおり取りまとめる。
1.背 景
2014年1月にOECD(経済協力開発機構)租税委員会は自動的情報交換の「共通報告基準」(Common Reporting Standard、以下CRS)を承認し、同年2月にG20財務大臣・中央銀行総裁会議がこれを支持した。同年7月には、CRSの実施細則(Implementation Handbook)も発表された。CRSは、各国政府間で自動的に情報交換する非居住者の口座の特定方法や情報の範囲を各国で共通化する国際基準であり、これによって国際税収協力を強化し、越境脱税と租税回避に対応するものである。G20の力強い推進下に、現在101カ国(地域)はCRSの実施を承諾した。
2014年9月、G20の財務大臣・中央銀行総裁会議で、中国は、CRSの実施を承諾し、初回対外情報交換を2018年9月に開始することを表明した。それ以降、国家税務総局は金融主管部門と連携し、積極的にCRSの関連国内法整備を推進し、2016年10月から、8カ月の意見徴集を経て、「非居住者金融口座税金関連情報職責調査管理弁法」を公表した。
2.要 点
ここで非居住者とは、居住者以外の者を指す。居住者には居住者個人と居住企業がある。
居住者個人とは、中国国内に住所を有するか、あるいは住所が無く国内に1年以上居住する個人を指す。
居住企業とは、中国の法律により中国国内において設立した企業、または外国(地域)の法律を根拠として設立したが、その実際管理機構が中国国内に所在する企業を指す。これらの居住者個人以外の個人と居住企業以外の企業が非居住者となる。
しかしながら、非居住者には、政府機関、国際組織、中央銀行、金融機関または所在地政府が認可し監督する証券取引所の上場企業とその関連機関を含まない。
3.新規口座開設への影響
「弁法」では、2017年7月1日から、個人または企業は商業銀行の預金口座の開設、保険会社の商業保険の購入を含め、金融機構の新規口座開設する際、金融機構の要求により口座開設申請書または別添の宣誓書にその税収住民身分を声明しなければいけないと決められている。
非居住者または非居住者支配人の受動的非金融機関(金融機関以外の事業体であり、能動的非金融機関と受動的非金融機関がある)は、金融口座を開設する際、口座所有者あるいは支配人の税収居住者身元宣誓書に氏名(名称)、現住所、税務上の居住地国(地域)、居住者国(地域)納税者識別番号、出生地、生年月日などの情報を記入しなければならない。
上記の情報は、一旦関連部門に送信した後、国家税務総局が中国の対外調印した協議書に基づいて口座所有者居住国税務所管官庁に報告する。
非居住者金融口座とは、中国国内にある金融機関で開設し、あるいは保有し、非居住者または非居住者支配人の受動的非金融機関の有する金融口座を言うものである。金融機関は非居住者金融口座を識別した日からこれを非居住者金融口座に繰り入れて管理する。
4.脱税租税回避の阻止
「弁法」における最大の影響は海外金融口座情報自動交換である。CRSに基づいて、金融口座税金関係情報の自動交換制度を実施し、まず一国(地域)の金融機関は、職責調査手順を通じて他の一国(地域)の税収居住者個人と企業のその機関で開設した口座を識別し、年別に金融機関所在地の国(地域)の主管部門に上記口座の名称、納税者識別番号、住所、口座番号、残高、利息、配当金および金融資産の売却収入などの情報を報告し、更にその国(地域)の税務所管官庁と口座所有者の居住者国の税務所管官庁と情報交換を展開し、最終的に多国(地域)間による越境税源の有効監督と管理を実現する。
5.非居住者の報告対象口座
「弁法」は、金融機関は、個人の金融口座残高が100万米ドル以下の低額口座については、2018年12月31日までに職責調査を完了し、100万米ドルを超える高額口座については、2017年12月31日までに、非居住者かどうかを特定する職務調査手続きを完了する、としている。この調査報告に基づいて、国家税務総局は2018年9月に初めて外国税務機関と金融口座情報を自動的に交換することになる。
既存企業の金融口座残高について、2017年6月30日に締め切り、口座総残高が25万米ドル超の高額口座は2018年12月31日までに金融機関の調査を完了する。25万米ドル以下の低額口座について金融機関は調査手続きを行わないが、その後何れかの西暦年末口座総残高が25万米ドルを超えた場合には、金融機関は翌年12月31日までに「弁法」の第26条及び第27条の規定に基づいて口座の職務調査を行なうものとする。
6.発動国や地域
金融口座情報に関する税務における自動的情報交換基準導入予定国や地域
2017年9月適用国や地域が韓国、英国など55の国や地域
2018年9月適用国や地域が日本、中国、香港、マカオなど46の国や地域
以 上
※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事を一部加筆修正したものです。