従業員が「社内規則」の署名を拒んでも その「社内規則」が適用されるか
1、事実経緯
S氏はA社に入社、営業主管を担当、A社と期限付きの契約満了後、月給1.3万元、年2回の業績賞与の無期限契約を更新した。2015年12月、A社はC社との売買契約の紛争でC社を起訴、開廷後、C社は、(裁判官に)その半年前に代金8000元をA社の当時プロジェクト担当のS氏個人の銀行口座に振込みした証拠を提供し、証言した。
閉廷後、A社はS氏に状況を問いただし、代金8000元をA社に返却するよう求めたが、S氏は知らないふりをし、その代金の返却を拒否した。その後、A社は、更にS氏が業務を利用し、私利私欲を貪った行為を発見したので、S氏の重大な規則制度の違反を理由に、S氏との労働契約を解除した。
S氏は、A社の労働契約の解除が違法行為に当たると考え、労働仲裁を提起し、A社に労働契約の違法解除の賠償金を求めた。
2、仲裁、裁判の争点
開廷審理の際、A社は電子メールの形式で社員全員に「社員規則」の意見を徴集、及び電子メール添付で正式な「社員規則」を送信した証拠を開示し、A社のS氏との契約解除の根拠を証明し、即ち、「社員規則」は民主的な手続き及び公示プロセスを経たものであると主張した。
S氏は、A社から数通のメールを受信したことをを認めたが、A社の「社員規則」の改定の手順及び内容は合法ではないと思って、よく読まず、A社の書面確認書にもサインしていないので、「A社は「社員規則」によってその労働契約を解除できない。また、自分の月給が1万元を超えており、8,000元の着服で契約解除の理由も合法ではない。」と反論した。
3、仲裁、裁判の結果
本案は労働仲裁、1審及び2審の裁判を経て、仲裁裁決にしろ裁判判決にしろ何れも、A社のS氏との契約解除は合法であり、A社がS氏に労働契約違法解除賠償金を払う必要はないと判断した。
4、コメント
①関連司法解釈と「労働契約法」は、社員規則の効力について民主的な手順を経たか、その内容が合法であるか、労働者に公示したかの三つの基準によって判断されるとしている。
本案のA社は改正の「社員規則」を社員全員に送信、意見徴集の時間を与え、合意した「社内規則」を電子メールで社員全員に送信した。S氏は、「社内規則」の内容及びプロセスを認めないなら、A社の規定時間内に意見できたし、その規則をよく読んで、異議を申し立てするべきだった。自分の権利行使を放棄した行為は、規則制度の民主的なプロセスによって生じた効力に影響しないものとする。
②規則制度の公示は正式、公開、永久あるいは長時間にわたって持続する方法を採用する。会社は後日の労働争議に備え、労働者に社内規則を公示または告知したことを書面に残さなければならない。会社は規則制度を社内LAN、OAシステム、電子メールなどの方式を通じて、公示方式を実施し、かつ労働者に直ちに査収、査閲(※1)するよう通知、または注意を払った場合、その公示または告知の手順を履行したと認定できる。
(※1)調査、検討
③労働契約の履行は、労使共に法律、誠実信用の原則に従う。本案のS氏の諸行為は労働契約履行における労働者の果すべき義務及び職業倫理に厳重に違反した。これこそ仲裁委員会と裁判所はA社のS氏との労働契約解除の行為が合法であると判断した根拠となっている。
以 上
※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事を一部加筆修正したものです。