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執行不能の事件について

一、事件経緯

 2016年4月1日、某サービス会社(以下、A社という)は上海のある芸術品有限公司(以下、B社という)と保安サービス契約を締結した。B社の契約不履行があったことから、A社は上海仲裁委員会に仲裁を提起した後、B社の分割払いの約束で双方が和解成立に達した。その後、B社は支払義務を不履行のまま、消息不明となった。

 2019年7月1日、A社は上海市第二中級人民法院(以下、中級裁という)に執行を申立てた。

 執行立案後、執行裁判官は直ちにオンライン財産調査コントロールシステムを通じて、B社の銀行預金、車両、不動産、工商登記、証券などの財産を調べたうえで、B社名義である唯一の銀行口座には3600元預金があったが、すでに他の裁判所に先に凍結され、中級裁は後順番となり、その預金を差引できず、それ以外の執行できる財産は見つからず、また、B社の住所宛執行通知書及び財産報告令はいずれも返却された。中級裁はオンラインとオフラインで同時に財産の調査を展開して、税務部門に出向いて納税状況を調べ、ありとあらゆる執行手段を尽くしたが、なお、B社の執行できる財産を発見できなかった。

 2018年10月、執行裁判官はA社を召喚し、その執行状況のほか、法によりB社及びその法定代表者に高額消費を制限させた措置を知らせた上、新たな手がかりがあるかどうかを問い合わせるとともに、関連裁判所にB社の破産を申請することができる。新たな財産の手がかりを提供できなければ、裁判所は法により今回の執行手続きを一旦終結し、新たな執行手がかりがある時に執行を再開すると告知した。A社は、中級裁の執行実情を認めた上、新たな手がかりがなく、B社の破産の申立をも放棄することを表明し、裁判所が今回の執行手続きを終結することに同意した。

 

二、コメント

1、裁判所は、執行にあらゆる措置を尽したとして、執行に該当する財産がなく、すでに執行条件を備えなく、執行することが出来なくなったことを「執行不能」事件と総称する。「執行不能」事件は当事者が負う商取引リスクであり、裁判所の執行が不十分であることによるものではない。実務上、多くの当事者は確定判決が国の信用で裏書を行うのだと思って、確定判決がありさえすればきっと書面通りに実行すべきといった、裁判所に徹底的に解決すべきあらゆるリスクの“無限の責任”を引き受けるように求める考え方を持たないほうが良い。

2、実務上、執行終結のプロセスを濫用し、執行対象のあるケースを執行終結の範囲に取り入れることを防止するために、最高裁は「終結事件の合格率」を査定指標として、あらゆる執行措置を尽くし規定の基準に達した限り、初めて執行できる財産がない案件として認定できる。

3、「執行不能」のリスクを減らすには、「未然に防ぐ」ことが必要である。取引前に取引先のバックグラウンド審査を行い、信用度が高い相手方を取引先として選択し、相手方に保証、担保、質権設定などで自己の債権を担保してもらうよう交渉し、万一の時に担保財産で返済できるように確保しなければならない。執行過程において、申立人の権利の実現は、裁判所の執行措置だけでなく、申立人の積極的な協力によるものである。申立人は立案時に債務者の連絡電話、通信住所、財産情報などの詳細な執行手がかりを提供して、裁判所が迅速かつ具体的に執行できるようにしなければならない。

 

重要法規解説

 

「消費量の拡大と質の向上の促進、強大な国内市場の形成の加速化に関する国家発改委などの実施意見」

 

 2020年2月28日、国家発展改革委員会、教育部、工業と情報化部など二十三部門の連名で「消費量の拡大と質の向上の促進、強大な国内市場の形成の加速化に関する実施意見」(以下、「実施意見」という)を公表した。

 「実施意見」は消費環境改善策に関する十九条より構成されており、その要点を以下の通り取りまとめしてみます。

 

一、背景

 長年にわたり中国経済を牽引してきた投資、輸出と消費の三輪は新型コロナウイルスの発生によって、いずれも減速を余儀なくされ拡大のスピードは落ちていくものと考えられる。中国政府は、難局を乗越えるために内需経済に焦点を当て、コロナウイルスで落ち込んだ市民の消費力を引き出すには、消費環境を改善させる必要性について認識した上で、「実施意見」の公布、実施を通じて、国内消費市場の振興策を打ち出し、「アウトバウンド」を国内の消費市場に取り戻そうという狙いも読み取れる。

 

二、消費改善の六つ方面の内容

1、国内市場の供給を最適化し、国産品とサービス競争力を全面的に向上させ、自主ブランドの育成を強化し、輸入品の供給を改善して、免税業政策をさらに改善する。消費財の分野で積極的にハイエンド品質認証を推進し、国内外向け販売品の「同一基準と品質」プロジェクトを全面的に実施し、日常消費品の輸入関税を引き下げる措置を実行し、一部の消費税品目の徴収を最適化することで、高級腕時計やアクセサリー・宝石の消費税を輸入段階から小売に徴収する仕組みに切り替え、市内免税店を増やす。

2、文化旅行によるレジャー消費の品質を改善するためには、入国観光とショッピング環境を改善して文化観光宣伝普及モデルを創出する。例えば、新しい文化と観光業を育成し、博物館観光、科学技術旅行、民俗旅行などの文化体験ツアーを奨励し、国内外の観光客のニーズに応じた旅行ルート、観光目的地、観光演芸及び地域と民族の特色を持つ創意旅行商品を開発し、各地域、各業界が携帯アプリ(APP)などの方式を利用して旅行商品情報を整合し、消費クレームルートを通じて、旅行とショッピング体験などを改善することを奨励する。

3、都市と農村との商業ネットワークの配置を最適化し、消費物流インフラの建設を強化する。都市圏の建設を継続的に推進し、都市圏における公共サービスの共有とインフラの相互接続のレベルを絶えず向上させつつ、成熟したビジネス圏のアップグレードを加速させ、いくつかの地域消費中心を形成する。

 実力、意欲のある大手小売企業による中小都市でのチェーンストアの展開、現地市場のニーズに適応したブランド商品の販売の促進を奨励する。EC業者の物流拠点と鉄道、道路、水運、航空輸送ネットワークとの協業配置、総合物流センターなどの建設を推進する。

4、「スマート+」消費生態システムの構築を加速する。次世代情報インフラの建設を加速し、オンラインオフラインの融合など新たな消費モデルの発展を奨励し、エコースマート製品の利用を推奨し、「インターネット+社会サービス」消費モデルの発展に力を入れて、5 Gネットワークなどの情報インフラの建設と商用化を加速化。「インターネット+」消費生態システムを充実させ、「スマートショップ」、「スマート街」、「スマート商圏」作りを奨励し、オンラインオフラインのインタラクティブ、ビジネス・観光の協同を促進する。エコー製品の供給、エコー公共交通施設の建設、省エネ境保護建築及び関連技術の革新などを重点的に推進する。

5、継続的に住民の消費能力を向上させ、生活保護者層の収入増を促し、住民の財産・収入を安定、増加させる。農村経済の多元化を推進し、農民工、大卒、退役軍人などの人々が故郷に帰って創業することを支援し、新型農業経営者の収入増の潜在力を掘り起こす。住民の投資運用金融商品を増やし、規範化させ、個人投資者向け国債、地方政府債の発行額などを適度に拡大する。

6、安心できる消費環境を全面的に整備し、市場秩序の管理を強化する。消費分野における信用システムの構築を積極的に推進し、消費者の権利保護ルートを確立し、各種類の知的財産権侵害や粗悪商品の製販などの違法犯罪活動を厳罰する。個人情報保護制度と消費後評価制度を充実させ、オンライン消費環境の最適化に力を入れ、ネット偽販売などのブラック産業チェーンを摘発する。オンラインで商品を購入した場合、クーリング制度を厳格に実行し、オフラインの実体店の理由ない返品の自主承諾を奨励する。

 

主要法令

法  律  名  称

施行日

1

国家発展改革委員会、教育部、工業と情報化部などの「消費量の拡大と質の向上の促進、強大な国内市場の形成の加速化に関する実施意見」(『重要法規解説』をご参照下さい)

2020/2/28

2

最高裁、最高検、公安部の「国境衛生検疫業務の強化、法による国境衛生検疫を妨害する違法犯罪の処置に関する意見」

2020/03/13

3

国務院弁公庁の「新型コロナウイルス疫病の影響に応対、就業安定の強化措置に関する実施意見」

2020/03/18

4

財政部、国家税務総局の「一部製品輸出税金還付率の引上げに関する公告」

2020/03/20

5

財政部、国家公文書管理局の「電子会計証票精算記帳保存の規範に関する通知」

2020/03/23

6

工業と情報化部の「5Gの発展の加速化の推進に関する通知」

2020/03/24

7

税関総署の「越境EC小売輸入商品の返品に関連する監督管理事項に関する公告」

2020/03/28

8

中共中央、国務院の「更なる完備する要素市場化配置体制メカニズムの構築に関する意見」

2020/03/30