裁判所は公告を経ず、欠席判決できるか
一、案件経緯
2014年、B氏は住宅購入のためA銀行と50万元のローン担保契約を締結した。その担保契約に「本契約に明記された借り手、担保人の住所地は通信及び連絡先とし、今後、本契約書にかかわる貸付に関する帳簿照合証憑、取立て書類及び関連法律文書、訴訟文書の送付住所はこれに準じ、借り手、担保人は通信及び連絡先に変更が生じた場合、直ちに貸主に通知するべきである。さもなければ、貸主が本契約に明記された通信及び連絡先に送付された書類は全部有効に送達されたものとし、これによる関連経済と法律責任は貸主、抵当者が負担すると承諾する」との条文を盛込まれている。
契約後、A銀行は貸付義務を履行したが、B氏は期限どおりに貸付元利を返済できなかった。A銀行はB氏に催促しても何も解決できずに裁判所に提訴を踏み切った。
二、判決
裁判所はA銀行の提訴を受理し、ローン担保契約におけるB氏の住所に書簡、起訴状副本、応訴手続き説明書を書留送付したが、B氏がそれを受け取らなかった。主審法官は、ローン担保契約に配達住所に関する約束は合法的かつ有効であると認めた。Bはその住所を変更した後、A銀行に直ちに通知しなかったため、裁判所からの応訴書簡が届かず、裁判所による欠席裁判の法的結果を負わなくてはならない。裁判所は、この約束は送達住所確認書に相当する効力を有すると判断し、原告に公告手続きを行うよう通知せず、最高裁が2017年7月19日に公布した「民事送達業務の更なる強化に関する若干意見」(以下、「意見」という)に基づいて、B氏がA銀行への未払いの借金元金、利息、罰金を支払うよう欠席判決を言い渡した。
三、注目点
1、実務上、訴状が相手に届けるのかについては民事事件の手続きの難点であり、一部の当事者は訴訟時間を遅延させるために、電話を拒否し、配達人に見えないよう隠れ、元の住所を離れるなどの方法で送達を避け、訴訟後も送達先住所確認書の署名を拒否する。このような状況になると、裁判所は往々にして公告送達の方式を取り、開廷時間を確定する必要がある。ただし、公告送達は公告情報を掲載し、公告満期までに通常3ヶ月以上を待たなくてはならない。原告は公告費、訴訟費用を先払い、訴訟期間が長引いただけでなく、その経済負担をも強いられた。
2、本案のA銀行とB氏と提訴前のローン担保契約において、送達方式、送達先住所及び法律の結果を明確にし、具体的に約定した場合、当該約束は送達住所確認書の効力に相当する。よって効率的に訴訟状の「配達難」を解決する効果的な効果を齎した。
ただし、多くの企業はその取引契約に取引内容、履行時間及び違約責任だけを重視しがちになり、書類の送達住所を明確にせず、一旦訴訟したら、相手の送付先の不明などで裁判所から訴訟書類が届かない。
3、「意見」の第八条は、当事者は送達先の確認を拒否、または応訴の拒否、電話受取の拒否、送達者の回避、元の住所の引越などによって逃げたり、送達を回避したりした場合、人民法院はその送達先の確認を要求できない場合、それぞれ以下の状況で処理することができると決めている。
(一)当事者が訴訟に係る契約、往来書簡において、送達先住所に明確な約束がある場合、約束した住所を送達住所とする。
(二)~(四)省略
裁判所は上記の住所に基づいて送達する場合、同時に電話、WeChat等方法で送達受取人に通知することができる。
重要法規解説
「法に依って適切にコロナウイルス疫病に関連する民事事件を審理する若干問題に関する最高裁の指導意見(三)」
2020年6月8日、最高裁は「法に依って適切にコロナウイルス疫病に関連する民事事件を審理する若干問題に関する指導意見(三)」(以下、「意見(三)」という)を公表した。「意見(三)」は全部で9つの部分と19条文で構成され、その主な内容は以下の通りである。
一、背景
コロナウイルス疫病は依然として蔓延し、国内外経済の下振れリスクが高まり、市場の不安定な要素が著しく増加している状況下で、最高裁は国内外市場の急変による渉外商事海事領域の各種紛争増を予見し、対外貿易、外資企業の経営の安定化と海運市場の健全化を確実に保障するためにコロナウイルス疫病の影響が大きい渉外商事海事などの紛争の種類に対して予判を行い、紛争を初期の段階に解決するよう、法律と司法解釈の規定に基づき、解決案を提出し、「意見(三)」の公布、実施を通じて国内外の当事者の合理的な予期を与える狙いがある。
二、主な内容
1、「意見(三)」は不可抗力とそれに類する規則の具体的な適用については、2020年4月16日最高裁が配布した「意見(一)」における不可抗力規則に関する中国法律の具体的な適用を明確にしており、域外法の適用については、当該域外法において不可抗力規則に類似する成文法規定または判例法の内容を正確に理解し、適用することを明記し、特に「中国の法律における不可抗力の規定を域外法の類似規定として当然理解することができない」と指摘した。また、国際条約の適用方法及び「国連国際貨物売買契約条約」の適用を明確にした。よって、その条文は下級裁判所に域外法律、国際条約を適用するよう指導を与える。
2、「意見(三)」は輸送契約事件の審理において、運送人が証拠を提供し、コロナウイルス疫病や疫病の予防・制御、出発地または到着地の交通禁止、制限防止措置などによる輸送ルートの変更、積卸作業の制限などによって、デリバリーの遅滞を致し、且つ迅速に託送者に知らせ、輸送人がかかる責任の免除を主張する場合、裁判所はそれを支持すると決めている。
3、「意見(三)」は外国企業または組織は裁判所に提出する身分証明書、代表者が訴訟に参加する証明書に関してコロナウイルス疫病または疫病の防止措置で速やかに公証、認証または関連証明手続きを行い、届け出の延期を申請することができない場合、裁判所は法により許可し、事件の実情に合わせて情状を酌量して合理的な延長期限を確定しなければならない。中国の領域内に住所がない外国人、無国籍人、外国企業と組織が中国の領域外から授権委任状を郵送し、あるいは託送する際、コロナウイルス疫病や疫病の予防措置のため速やかに公証、認証あるいは関連証明の手続きを取り扱うことができない場合、裁判所は前項規定によって処理すると決めている。
4、「意見(三)」は中国の領域外で形成された証拠について、当事者がコロナウイルス疫病や疫病の予防措置の影響を受けて、当初の挙証期間内に提供できないという理由で、挙証期限の延長を申請した場合、裁判所は、収集する証拠、証拠の形式、内容、証明対象などの基本情報の説明を要求しなければならならず、理由を審査し成立した場合は、挙証期限を適宜に延長することを許可し、その他の当事者に通知しなければならない。延長された挙証期限は他の当事者に適用されると決めている。
5、「意見(三)」は中国の領域に住所がない当事者はコロナウイルス疫病や疫病の予防措置のため、法定期間中に答弁状を提出し、または、上告し、延期を申請することができない場合、人民法院は法によって許可し、且つ事件の実状に合わせて情状を酌量して延長の合理的期限を確定しなければならないことを明確にし、同時に、当事者が悪質に訴訟を遅らせるのを防ぐため、許可しない除外条項を定めた。
6、「意見(三)」は渉外商事海事の分野における時効中止は外国裁判所の判決、裁定の承認と執行、または外国仲裁判断の時効が中止されるか否か、如何に中止されるかの問題に対して、当事者が外国裁判所によって下された法的効力の生じた判決、裁定又は外国仲裁裁決の承認、執行を申し立てる期限は2年とする。時効期限の最後の六ヶ月内に、当事者がコロナウイルス疫病或いは疫病の予防コントロール措置によって承認と執行を申し入れることができないため、民法総則第194条第1款第1項の規定に基づいて時効の中止を主張する場合、裁判所はそれを支持しなければならないことを明確にした。
主要法令
№ |
法 律 名 称 |
施行日 |
1 |
最高裁の「法に依って適切にコロナウイルス疫病に関連する民事事件を審理する若干問題に関する指導意見(三)」 (『重要法規解説』をご参照下さい) |
2020/06/08
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2 |
国家知識産権局の「商標権利侵害判断基準」の配布に関する通知 |
2020/06/15 |
3 |
国務院弁公庁の「輸出製品の内販転換の支持に関する実施意見」 |
2020/06/17 |
4 |
人力資源と社会保障部の「企業社会保険費の段階的減免の延長に関する政策」 |
2020/06/22 |
5 |
商務部弁公庁、国家市場監督管理総局弁公庁の「外商投資情報報告制度の更なる完備、進行中事後監督管理業務の強化及び完備に関する通知」 |
2020/06/30 |
6 |
税関総署の「越境電子業務B2B輸出監督管理テストの展開に関する公告」 |
2020/07/01 |