解雇かそれとも辞職か
一、 事実経緯
2009年5月8日、A氏は上海金山電子公司(以下、金山公司という)に入社、貿易事務の担当として金山公司と1年間の労働契約を結んだ。
2010年5月8日、A氏は営業職として金山公司と労働契約を更新した。
2010年7月10日、A氏は仕事中に職場を離れて社用車を利用し、上海市虹口区就職促進センターにて自ら退職手続きを行った。
2010年7月14日、A氏は再び社用車を利用し積立金管理センターにて自ら積立金の移転手続きを行った。
2010年8月28日、A氏は労働争議仲裁委員会に仲裁を申し入れ、金山公司に対し労働契約の違法解約をされたとして賠償金9,000元の支払いを求めた。労働争議仲裁委員会は審理後A氏の請求を支持しない裁決を下した。その裁決を不服としたA氏は裁判所に提訴した。
二、 判決の旨
裁判所は、A氏が金山公司に対して労働契約違法解約で賠償金を請求する場合、金山公司が労働契約を違法解約した事実を挙証すべきであるが、A氏が提示した退工単(会社側が労働者に発行する書類)は金山公司が労働契約を違法解約した事実を証明するには不十分であると判断した。従って、A氏は挙証出来なかった責任を自ら負わなければならないと考え、また両方の法廷での陳述及びA氏の離職前後の行為を分析し、A氏は金山公司の本人に対する規律違反処分に不満をもって辞職を決断した確信性が高いと判断した。以上のことから、2011年1月10日、裁判所はA氏の金山公司に対する労働契約解約の賠償金の請求に対し、事実根拠が乏しいという理由でA氏の訴訟請求を退けた。
三、 法律根拠
民事訴訟法第六十四条により、当事者は自ら提出した訴訟請求に関わる事実或いは相手の訴訟請求に反論する根拠となる事実について証拠を提供し証明する責任を負うものとする。証拠がない或いは証拠が当事者の主張する事実を証明するに足りない場合、挙証責任を負う当事者は不利な結果を負うものとする。
四、 コメント
1、解雇と本人の自発的な辞職は労働契約解約の形式であるが、この二つの解約形式に関わる経済補償金、賠償金の支払いについては法律上全く異なる規定が適用される。
一般的に言えば、使用者側に法に決めた過失が存在し、労働者がそれを理由に辞職を申し入れた場合、使用者は法定基準に沿って該当労働者に経済補償を支払うべきである。更に、使用者が労働者を違法解雇し、労働者が労働関係の復帰を求めず、あるいは労働者が労働関係の回復を求めても実際には回復できなくなった場合、使用者は法的規準に沿って労働者に対して賠償金を支払わなければならない。
2、使用者は一方的に労働者との労働契約を解約した場合、書面形式を取ったり、口頭形式を採用したりしてきたが、使用者による一方的な解雇と労働者による自発的な辞職に対する経済補償金と賠償金との差額が大きいため、双方の間で争議が生じた場合、一方的な解雇かそれとも自発的な辞職かについて双方の言い分が大きく異なり、結局、労働契約の解約は常に混沌な状況に置かれてしまうことがよくある。
3、労働契約の解約形式が曖昧な状況下で、どちらが挙証不能の法律結果に責任を負うべきか、実務上議論が分かれていたが、本案のように、挙証責任のある労働者は使用者が一方的に解雇した行為を立証しなければならなず、さもなければ、挙証できないことによってもたらした法律結果を受けなければならないという労働仲裁委員会の裁決および裁判所の判決は使用者側に軍配に上がったと云えるだろう。
※本稿は、当事務所でアドバイザー契約をしている董弁護士の事務所で発行されている記事です